生まれたとき、周りのものが綺麗だった。
1つ1つがとても綺麗でかけがえのないもののように見えた。

これから沢山綺麗なものを見て生きていくのだと思った。

輝きの中で生きていく事が当たり前だと。

当然それは勘違いだった。
新しかった物は古くなった。
若かった者は老いた。

輝いていた世界に闇が墜ちた。

僕は絶望した。
汚いものを見て、穢れたものを見て。

だけど、気がついた。
綺麗で輝いているもの全てが無くなる事は決して無いのだと。

ならば私は輝き続けよう。
輝いているものを集めよう。

そう思えたとき胸に何かがすとんと収まった様な気がした。



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ジリリリリリリ

秒間に10回以上金物を打ち鳴らす激しい音が鳴った。

「むぅ…」

俺は左手を動かし音源に上から叩きつけた。

「痛ってぇ!?」

見事に外して関係ないものを叩いた…。
寝ぼけて動いたためだろう。

「ついてねぇなぁ…」

とはいえ、おかげですっきり…とは言えないが目は覚めた。

俺は未だ鳴り続ける目覚まし時計を止め時刻を確認した。

時計の針は7時5分を指していた。

今日の授業は2限からだからまだ時間に余裕がある。

そんな事を思いながら俺は身体を起こし枕元に置いてあったタブレット端末に手をやった。

不思議な事に知らないアドレスから5通程のメールが来ていた。

「今どきメールかよ。」

殆どの連絡をSNSでする時代だ。
いろんなサービスの登録用にアドレスこそあるものの俺がメールを使う相手はいないはずだった。

大方迷惑メールか何かだろうな。

そんな事を思いながらも5通も来ていた事を不思議に思いメールボックスを開く。

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高崎 仁志様

この度は貴方に特殊な要件でメールをさせていただきました。

2つ目以降のメールはまだ開くことができません。

貴方にはゲームに参加してもらう事になりました。

開始は10日後の11月20日です。

開始日の午前0時には側に誰もいない様にしてください。

そして何があってもいいように準備しておく事を推奨します。

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なんだこれは?
新手のチェンメか?

続いて2つ目以降のメールも開いて見たが白文の空メールの様だった。

「こんなもんに時間を取られる方が馬鹿らしいか。」

俺は朝食の用意をしようと台所に立って調理を始めた。

トースターでパンを焼く間にコンロの火にフライパンをかけてベーコンを炒めその上で卵を割る。

チン

トースターから焼きあがったパンを取り出しバターを塗り、卵の黄身が固まりきる前に卵とベーコンを皿に盛る。

今日はベーコンエッグとバタートーストだ。

昨晩の残りのポテトサラダを冷蔵庫から取り出しコーヒーを煎れる。

「あっ。」

手を滑らせてコーヒーを注いだコーヒーカップがフローリングの床に落下する。

偶々だった。
俺はなんの気無しに"止まれ"と思った。

結果としてコーヒーカップは落ちなかった。
中のコーヒーをカップの中に留めたままで。

俺はそのまま何も違和感を感じずにテーブルの上にカップの置いた。

そこではっと気づいた。

"今のは何だ?"

ピロリン

そのとき携帯が鳴った。

何故か画面が2つ目のメール画面になっており真っ白な画面に文字が書き込まれた。

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おめでとうございます。
ゲームの能力が覚醒しました。

貴方は10567人目の能力覚醒者です。

内容は

地表から10mまで直前に触れていたものを浮かせる力です。
但し持続時間は0~3時間とします。
(制限内で自由に設定可能)

能力ランクはSSです。

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そのメールを見て俺は認識を改めた。
このメールは本物だと。


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「父さん、母さん、変なメールが来てないか!?」

電話が繋がると共に俺は電話口で叫んでいた。
このメールが本当なら"家族にも送られているかもしれない"そう思うと直ぐにでも確認をしたかった。

「お兄ちゃん?急に叫んでどうしたの?うるさいよ?」
出たのは高校生の妹だった。

「知咲か!お前今朝携帯に変なメール来てなかったか?」

「ん?あの4通のメール?ゲームに参加するってやつ?どうせチェンメでしょー?」

来ていた。妹にも。
俺より件数は1件少ないもののおそらく俺と同じ物だろう。

超能力を獲得できる。

これだけを見れば凄く魅力的だ。

しかし獲得条件もわからない。
ゲームの内容も不明。

そしてメールの最後の一行

"何があってもいいように準備しておく事を推奨します。"

これが何か頭に引っかかって仕方なかった。
家族には警告しておきたかった。

「信じられないかもしれないが聞いてくれ。俺は今朝、超能力に目覚めた。原因はおそらくそのメールのせいだ。」

「お兄ちゃん何を言ってるの?超能力?頭おかしくなったの?」

知咲は間に受けてくれない。
当然か…こんな話信じろという方が無茶だ。

「知咲!!本気なんだ!そのメールは本物だ。父さんと母さんにも伝えてくれ。何かあってからじゃ遅い。必ずメールの指示には従ってくれ。嫌な予感がするんだ。」

本気で伝えた。
普通に考えればここで諦めてもよかった。
でも今伝えておかなければならない様な気がしたのだ。

「お兄ちゃんの嫌な予感…ね。わかった。伝えておく。お兄ちゃんも気を付けてね。」

そう言って知咲は電話を切った。
知咲の事だ、どうにかして上手く両親にも伝えてくれる事だろう。

「これが思い過ごしならいいんだけどな。」

時計を見ると9時をまわっていた。

「流石にこれに振り回されてばかりいても仕方ないか。」

携帯を片手に持ち俺は大学に向かった。



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教室に入ると人だかりが出来ていた。

その中心にいる人物はバチバチと音を立てて光っていた。

明らか異常な光景だった。

「俺らもメール受信してんのになんで目覚めてないんだろうな?」

「美咲ちゃんすごーい!私も使えるようになりたいなぁ。」

「私もよくわかんないんだよね。気がついたら使えるようになっててさ!10日後もどんなゲームなのか知らないけどこの力があれば楽勝なんじゃないかな?」

教室で普通に超能力を使うものがいる。
俺の知っている現実ではありえない事だ。

「お、ついにニュースになったみたいだな!」

一人の男が声をあげた。

俺も端末を操作しネットを開くとトップページに"不思議なメールと超能力が観測されました。"といったタイトルがあった。

覗いてみるとどうやら日本だけでなく世界各地でこの現象は起きているらしい。

メールの送信元を探そうとしているが一切の足取りが掴めないそうだ。

世間はいいニュースとしているがどうにも俺には胡散臭い気がして仕方ない。

送信者はいったい何を考えているのだろうか。

そう考えている時、後ろから1枚の紙切れを渡された。

内容を見て俺は絶句した。

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貴方の能力は物を浮かせる能力。

話題になっている娘以外でこの場の能力者は貴方だけ。

ランクもSSであの娘より高い。

貴方の事をバラされたく無かったら15時に食堂に来なさい。

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後ろを振り返ると小柄でフードを深く被っているヤツが人混みをすり抜けて去っていった。

どうしてあいつは俺の能力を知っている?
呼び出して何をするつもりだ?

冷や汗が背中を流れる。

とりあえず貰った紙切れを財布に突っ込んだ。

他の人間に見られる訳にはいかない。

ゲームの内容が俺の想定している最低の事態だった場合10日後まで能力はバレない方がいい。

俺は講義中そいつの事について思索した。

俺の能力が割れた理由で考えられるのは、あいつがメールの配信者である場合、あいつの能力が他人の能力を知る力を含む場合、何らかの方法で俺の端末をハックしている場合の三つだ。

一つ目はほぼ切っていい。
あいつが配信者なら俺にメールで食堂へ来るように言えばいいからだ。
何らかの制限がある場合は別だが他人に超能力を与えられる様なヤツだそれくらい訳ないだろう。

二つ目と三つ目はなんとも言えない。

能力なのだとしたらこちらも向こうの能力、もしくはその一部を知っている訳だ。
何か求められてもそこを交渉のテーブルにおける。

ハックされている場合の対策は端末からsimカードを抜く事だ。
こいつが無ければ端末がネットに繋がらないのだからこれ以上俺の端末を覗く事はできないだろう。

まぁ俺以外の能力者がいないと断定している辺りこの可能性もかなり低いだろう。
全員分の端末をハックするなんてのは至難の技だ。

能力が一つと決まった訳じゃないから断定はできないが未だにネットで調べた結果二つ目の能力を手に入れた人はいないらしい。

それとこれは希望的観測だが字が丸く小柄だった事を考えて相手は女性だろう。

つまり能力抜きの純粋な力比べでは俺の方が有利ということだ。

俺はこんなことで買うか悩んだが大学の購買でもう一つ端末を買いそちらにsimカードを挿れて端末をポケットに突っ込んだ。

前の端末はバックの中に仕舞う。

これで準備は完了した。

俺は警戒心を持って大学の食堂に入った。


「やっときたわね。」

食堂に入ると小柄な女性が話しかけてきた。
室内で1人だけ深くフードを被っていて周囲から浮いているのだが本人はどうやら気がついていないらしい。

「君が僕に手紙をくれたのかい?」

ストレートに問う。
ここで遠回しに言う必要もあるまい。

「そうよ。私は貴方の力を知っている。それだけじゃないわ。他の能力者の力もね。」

どういうことだ?この女がメールの送り主なのか?一体どうなってる?

「お前が、皆に能力を配ったのか?」

驚きの余り声が引き攣る。

「あまり人に聞かれたくないわ。場所を移しましょう。」
女はため息と共にそう言った。

ピークは過ぎているとはいえここは食堂だ。俺も他人に必要以上に情報を明かしたくはない為素直に従った。


女に連れてこられたのは人気のない居酒屋だ。

もう2年以上ここに住んでいるが俺はこんな店がある事を知らなかった。

「さて、何から話したものかしら。」

2人で席に着くと女がそう言ったので俺はさっきの質問を繰り返した。

「ええ、そうよ。私が力を配ったの。あのメールで一斉にね。」

「それは何の為に?」

「ゲームの為によ。普通の人間が殺しあったってつまらないでしょう?」

「……は?」

「ん?だから殺し合うためよ。」

理解できなかった。いや、しなかった。
この女は平然と何を言っているんだ?
表情1つ変えずになんて事を言っているんだ?

「ハハ、冗談だろ?何だって俺達人間が殺し合うんだよ。理由がないじゃないか。」

あまりのショックで乾いた笑いとともにそう言うのがやっとだった。

「理由ならあるわよ。間引く為ね。人間は増えすぎたの。それに老いた人間が増えすぎたのよ。無駄に長生きしちゃってさ。だから成人全体で数が半分くらいになるまで殺し合ってもらおうと思ってるの。」

これは冗談じゃない。
本気で言ってるってわかった。

「……いますぐこの計画を止めろ。」

「あら?どうして?素敵な計画でしょう?」

「ふざけるな。胸糞悪い!」